5月のIBASHO研究会を開催しました

2026年5月21日に開催の「こまちIBASHO研究会」のテーマは移動がつくる地域の未来 ―「生活のデザイン」としてのモビリティとコミュニティの接続―でした。

地域交通・移動・モビリティとコミュニティを掛け合わせた研究実践やコンサルティングを行っている金載烈(キム・ジェヨル)さんをお招きしました。「移動は単なる手段に過ぎない」という視点から、15年続く三重県玉城町の成功事例、そしてこれからの地域ビジョンまで、金さんにたっぷりとお話しいただきました!

1. 移動は「手段」。大切なのは「Bの先(目的地)」で何をするか
これまでの日本の交通政策は、「効率よく・早く」A地点からB地点へ運ぶことに価値が置かれてきました。しかし、人口減少やライフスタイルの変化により、その価値観は今、大きな転換期を迎えています。下記がそのポイントでした。
①「便利さ」の追求の裏側にあるもの:過度な便利さを求める裏には、ドライバーなどの労働者の負担があることを忘れない。
②目的地(Bの先)の魅力:移動の先にある場所が魅力的でなければ、人は外に出ず、家の中で完結してしまう。
③「生活のデザイン」としてのモビリティ:これからの交通に求められるのは、地域の生活を豊かにし、人とコミュニティを接続するための設計。

2. 15年続く三重県玉城町「元気バス」の奇跡
伊勢市に隣接する玉城町(人口約1.5万人)では、2010年から予約型交通「元気バス」を運賃無料で運行し、15年間継続させています。全国のオンデマンド交通の多くが実証実験で終わる中、なぜ玉城町は成功しているのかを検証いただきました。
① 「移動が健康を作る」をデータで証明
予約型交通の走行データを分析した結果、高齢者が外出・社会参加することで、年間1人あたり約2万円の医療費抑制につながっていることが判明しました。町全体で約1.5億円の抑制効果が定量的に示されたことで、予算を投じる明確な大義名分が生まれています。
② 「コンシェルジュ」と「動線」の工夫
システムだけに頼らず、社協スタッフが「帰りの予約はどうする?」と声をかけるなど、生活に寄り添ったサポート(コンシェルジュ機能)を重視しました。また、「健康体操+入浴+ランチ」といった、高齢者が出かけたくなる1日の動線をセットで設計している点も大きな特徴です。
③ 適切な運営レベルの維持
あえて車両(ハイエース3台)を増やしすぎず、徹底した「乗り合い」を促進。コストを抑え、民業を圧迫しない「適切なレベル」で運営することが、持続可能な仕組みの秘訣です。

3. データから見えた「潜在需要」とこれからの地域ビジョン
金さんの分析からは、高齢者だけでなく「子育て世代」の課題も見えてきました。
①女性を家族の送迎から解放する:30代女性の約7割が「地域のコミュニティとつながりたい」と感じつつも、子供の送迎に追われています。モビリティがこの役割を担うことで、多世代が地域とつながる余裕を生み出せます。
②100以上の「通いの場」を創出:玉城町では移動手段の確保とともに、住民自らが運営する「通いの場(大人の部活)」が100箇所以上に増えました。元気バスはスクールバスも兼ねており、世代を超えた交流の基盤となっています。

おわりに:最新技術よりも「地域のビジョン」を
「自動運転」や「最新システム」を導入しても、そこに「人(コミュニティマネージャー)」がいなければ、住民の生活には浸透しません。
大切なのは、「何のために乗り合い交通を走らせるのか」という地域のビジョンです。移動を通じて住民が外に出るきっかけを作り、地域の中に数多くの居場所を作る。交通とまちづくりが強固に結びついた社会づくりこそが、これからの地域には不可欠であると感じた勉強会でした。

【講師プロフィール】
金 載烈(キム・ジェヨル)氏 こまちIBASHO研究会メンバー。
地域交通、移動、モビリティ、コミュニティを軸に、研究・実践・コンサルティングを多角的に展開。


IBASHO研究会では、毎月1回、会員の皆様と様々な事例や視点を持ち寄りながら、居場所についてや、実務についてオンラインで学びあっています。

ご関心をお持ちの方は詳細をぜひご覧ください。
https://comachiplus.org/project/ibasho/
ご参加をお待ちしております!