子育てとキャリアと家事~第14回とつかフューチャーセッション開催報告~

子育てとキャリアと家事ということをテーマに第14回とつかフューチャーセッションの話題提供としてお話をしました。2024年1月に行われたとあるイベントで「半人前」というテーマにお話をしたのですが、今回はさらにそこを深堀しました。

「半人前」という感覚について

半人前という感覚はどういうことか。例えば仕事であれば、今できること、頑張ればできること、「ちょっと無理」と思っていること、そんなことの間で時々ストレッチすることがあります。そのストレッチのときに、できないと思っていたことが「できた」に変わったり、見える景色が変わったり、新しい面白さを知ったり、質を追求できた先にそこにある美に触れたりすることがあります。

そこに家事と子育てが加わった時に、「できる」と思っていたことがそれすらできなくなったり、家事も子育ても「できている」より「できていない」を突き付けられることが多くなり、『すべてにおいて半人前』という感覚に陥りがちです。

でも本当は十分頑張っている、なんならキャパオーバー

でも、本当はそのそれぞれのできているを足していくと、十分頑張っていてなんならキャパオーバー。しかし、感覚としては「半人前」感の積み重ねもある。もちろん、一つの軸では見えてこなかった世界が複数になることはある、その面白さは万とあるが、今日はこの「半人前」感にフォーカスをあててさらに深めていきました。

半人前「感」を生み出す構造

この半人前「感」(これっぽっちも半人前ではないので敢えて「感」とつけます)は本当はそうではない。しかし渦中にいるときはなかなかそう思えない。どうそれを違った視点で見れるかを考えるためには、その「感」を生み出す構造を考える必要があるということで、今日はそこを深彫りしました。

「非生産」➤自らに埋める声

社会の中、職場の中、家庭の中にある。

一つ目は、市場が家庭や自然への依存をもとに成り立っていること、生産に対しケアを「非生産」という捉えが強いこと、そんな話を先日アートプロジェクトを通して見つめ直しました。その話をまず皆さんと共有し、いかに自らの中に声を埋めているかを考えました。

この話の詳細はこちらのnoteに記載しているのでご関心がある方は読んでみてください。

無意識の偏見

アンコンシャスバイアス

二つ目は、職場の中における無意識の偏見、先入観についてです。

男性=仕事、女性=家庭

男性=仕事、女性=家庭という性別バイアスが実は女性のほうが強く持っているというデータの紹介をしました。他にも会の中では複数のデータをみていきましたが、こちらでは割愛します。このデータの詳細にご関心ある方はこちら

自分が何かを発想するとき、考えるとき、発言するとき、そこに「偏見」のレンズがないかをふと立ち止まって確かめる。そのためには、いかにいろんな声と声の背景に触れ続けていることが大切かをここではお話をしました。

自分でもはっとすることはたくさんあります。こまちぷらすが2016年から開催し続けているフューチャーセッションはまさにその声と声の背景に触れ続ける場の一つです。

見えにくいコーディネーション

3つ目に見えにくいコーディネーションについてお話をしました。こちらは家庭内の構造です。

2021年総務省データ

まず6歳未満の子どもをもつ男性女性の家事関連時間のこの過去20年のデータをみていきました。男性の家事時間や育児時間は増えている。逆に女性の家事時間は減っている。(そのかわり育児時間は増えている)他にも複数のデータをみていきましたが、特に掘り下げたのは、コーディネーションについてでした。

担当している家事の種類は?という調査において、項目数が女性は男性の3.4倍だったということが書いてありました。(掃除とか調理とか、そういう家事項目数です)

そのランキングを見ていくと、男性はゴミ出し、皿洗い、片付け等が多く、女性は調理、献立決め、食材買い出しというものが多いことに気づきます。

ここでポイントは、この調理献立決め等が好みや様々な情報の組み合わせが必要だということ。また、ここに見えていないコーディネートが裏に大きく動いているということです。

コーディネートというのはどういうことか。

©こまちぷらす

これは敢えて「業務っぽく」整理した内容です。
コーディネートは例えば多角的な情報収集が必要です。こどもの好みは何か。いやいや期であることを踏まえて何かと組み合わせて食べてもらうか、今日のコンディションはどうか。予算と価格帯、買い物導線、調理時間総合的に考えます。
また、状況だけでなく、こうありたいこうあるべきという、自分のありたい姿や目指したい状態への理想とのギャップや「ここまでは果たすべき役割」という誰からも言われていないけれども勝手に感じる社会的プレッシャーとのせめぎ合いでの「総合的判断」が毎日毎日、様々な場面で繰り広げられています。

この状況把握、総合的判断が相当脳内メモリーを消費していくので、「私は何をしたいか」とか「社会について」とかいろいろと本当は考えたりしてみたいこともあったとしても、その優先度を落とさざるを得ない。
加えて、家庭誰かにお願いをする事前事後のコーディネートや緊急時のカバー、それに備えた日々の職場や様々な人との関係構築等も欠かせません。

なんてしていることは、先ほどの「項目数」には項目としては表れてこない。そしてコーディネートというのは分散しづらい。このあたりが、恐らく見落とされがちなポイントでしょう。

じゃあどうしたら?

思考のスタートを「ねばならぬ思考」から「やってみたい思考」へ

©こまちぷらす

じゃあどうしたらよいのか。といったときに、そもそも先ほどの「箱」の捉え方を変えるのがよいのかなと思います。先ほどの図(上の図、左の箱)はどちらかというと『ねばならぬ思考』もしくは『できる/できない』の軸での整理になっています。
それを、まず「やりたいベース」で整理してみる。「ここまでは自己満足だけどやりたい」という範囲は何なのか。それ以上やれたことは、全て「やれたら私すごい」というゾーン。それより更に上は「できればやってみたい」というささやかな夢のゾーン(これは月1とか年1でもやれたら超嬉しいみたいなもの)、そういう風に整理をしていくとそもそも、「今日もあれもこれもできなかった」ではなく、「今日は私「ここまで自己満足!」とやりたいことやれた!」「ここできたなんてすごい!」とマイナスからゼロではなく、ゼロからプラスに積み上げ方式になっていきます。

価値づけ&探す語る時間確保&主語を私から私たちへ

2つめにできる視点の変更は、こちらの図です。

先ほどの「やりたいこと」ベースは世の中が自分ひとりだったらうまくいきますが、そういうわけではもちろんありません。家族、職場、コミュニティ、社会、さまざまな人とともに生きているので、もちろんやりたいことを自分軸だけで考えるだけではうまくいかない。(他の人の「やりたいの犠牲」のもとに成り立っていればまた更なるいびつな構造を生み出してしまいます)

そこで、やりたいこと、できること、役割のこの3つの円を意識します。

この3つの円が左上の図のように、同じくらいの円の大きさだったらいいのですが、実際は、「役割」が大きく、右上の図のようになっていないでしょうか。とにかく役割の円がとっても大きい。ありたい姿ややりたいはもはや透明でみあたらない。できることなんて「できない」「できない」が溜まってもう小さくて見えない。

こまちぷらすでもいろんな方とお話ししますが、「何をしたい?」という質問は時には酷で「それをずっとないものにしてきた自分(そうせざるをえなかった自分)」と向き合うことから始めることになります。親であること誰かのケアをする役割をすることの大きさで「透明」になってしまう。ここに私のそれは何だっけ?と模索していく時間が必要です。

この円のバランスを取り戻すために、社会全体で、周り人が一緒にできることはいろいろとあります。例えばこの3つはあるでしょう。
①できない気持ちが溜まっているときに、「十分できているよ」とできていることの価値づけていくこと
②やりたいことが空っぽになってしまっている時の、それを探す時間・考える時間・語る時間を確保しておいでと送り出すこと
③「自分でやらないと」を「私たちでやっていこう」に、みんなで変換していくこと

などです。

①の十分できているよということについては、見えていないこと、表に現れない先ほどのコーディネーションのようなことも、想像して価値づけていくことが大切でしょう。本人も当たり前のようにやっている、そもそもやっているという意識すらない。なので「できていること」に入っていないのです。できていることやれていることがあるんだということを自他ともに確認できていくと少しずつこの上の「できる」円が大きくなっていくと思います。

②について。がん検診や健康診断は最近は「ちゃんといくように」と後押しする風潮が広がってきました。(まだまだですが)検診いかないとと思っていても後回しにしてしまうことのように「自分のケア」はとにかく最後にしてしまいがちです。自分のありたいこと=beingについて考えることは特に低く位置づけがちで、後回し中の後回しになります。でも、実はすべてに影響のある部分だから、その時間をとっておいでと後押ししたり取れるような環境整備(託児をつけたワークショップ等、しかも託児がすごく面白いコンテンツがある等、こどもにとっても嬉しいことがあれば尚罪悪感もなく参加できる)があるといいでしょう。

③自分でやらないとと役割に生きている時間が長くなると、そこが全てを覆っていきます。それ、一人でやらなくていいよ。一緒にやっていこうと、そんな気持での関りが増えるとどれだけいいことか。「手伝うよ」ではなく、その「一緒に考えよう」という「一緒に」、「考える」ところから、を考えてくれる人が増えれば役割の円は少し小さくなり、他の円を大きくする余裕ができるでしょう。


今回のとつかフューチャーセッション、本当にいろんな立場の方がご参加くださいました。学生さんや研究者の方、子育て中のお母さんから育休中のお父さん、支援者や専門家の方等。その立場を一旦置いて「自分」に戻って話せるのも大きな特徴ですが、まさにそんな立場を忘れて今日話してましたという発言もありました。

この会が開催できるよう支えてくださった株式会社イミカさんに心から感謝申し上げます。ご参加いただいた皆さんもありがとうございました!

参考)過去のとつかフューチャーセッション:


※2016年から毎年複数回開催してきました※
第1回 とつかフューチャーセッション
(ゲスト:株式会社富士通研究所のクリエイティブ・メディエーター原田 博一氏(当時))

■第2回 とつかフューチャーセッション
(ゲスト:特定非営利活動法人CRファクトリー代表呉哲煥氏)

■第3回 とつかフューチャーセッション
※井庭先生スライド⇒https://www.slideshare.net/takashiiba/ss-76470048
(ゲスト: 慶應義塾大学総合政策学部教授 井庭 崇教授)

第4回 とつかフューチャーセッション
※CRファクトリーさんのレポート⇒https://crfactory.com/2968/ 
(ゲスト:花王株式会社 生活者研究センター 宮川 聖子氏 )

■第5回 とつかフューチャーセッション
※大川印刷様によるレポート⇒https://www.ohkawa-inc.co.jp/2018/01/25/%E6%88%B8%E5%A1%9A%E3%83%95%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%82%BB%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-%E7%AC%AC5%E5%9B%9E%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%80%8C%E9%9A%9C%E3%81%8C%E3%81%84/
(ゲスト:NPO法人FDA理事長の成澤俊輔氏)

第6回 とつかフューチャーセッション
(ゲスト:株式会社あおいけあ加藤忠相氏)

第7回 とつかフューチャーセッション
(ゲスト公益財団法人ジョイセフの船橋氏・横井氏)

第8回 とつかフューチャーセッション
(ゲストゆたかカレッジ学長長谷川正人氏)

第9回 とつかフューチャーセッション
(ゲスト株式会社ぐるんとびー代表菅原健介氏)

第10回とつかフューチャーセッション
※代表森note⇒https://note.com/yumiko_mori/n/n1276d38fcb63
※大川印刷様レポート⇒https://www.ohkawa-inc.co.jp/2020/02/26/%E3%81%A4%E3%81%AA%E3%81%8C%E3%82%8A%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%8B%E6%99%82%E9%96%93/
(ゲスト:白梅学園大学長谷川俊雄教授)

■第11回とつかフューチャーセッション:➤コロナ禍オンライン
~「誰かの声」から「私たちの話」をしよう ~

■第12回とつかフューチャーセッション:➤コロナ禍オンライン
 子育ての孤立×オンライン×居場所を考える 〜「3枚の葉っぱ」ワーク&実践報告〜

■第13回とつかフューチャーセッション:
 「共生社会」(ゲスト:慶應義塾大学堀田聰子教授)