森:こんにちは!今日はゲストに早稲田大学 文化学術院教授の石田光規教授にお越しいただいております。石田先生、よろしくお願いします!
石田 光規教授(以下、石田):みなさん、こんにちは!よろしくお願いいたします。
森:こまちぷらすは、石田先生とは、NPO法人CRファクトリーさんからおつなぎいただき、2019年から何度か調査を実施させていただいたご縁があります。中でも、去年行った「居場所と孤独の調査」においては、「30分圏内に居場所があることが、大事であること」や「場があることによって孤立感が非常に下がったり、自己有用感が上がっていくこと」も過去の調査と掛け合わせて発信をした1年でした。
改めて今日、石田先生から「孤立・孤独とは何なのか?」ということや、いくつかの角度から先生が考えていらっしゃることを聞いて、私たちが今やろうとしている構想についてもお話していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
石田先生、よろしければ簡単に自己紹介をお願いできますか?
石田:はい!先程ご紹介いただきました早稲田大学の石田と申します。専門は社会学で、細かい分野を申し上げますと、「孤独」や「孤立」あるいは「地域のつながりづくり」ですとか、若い人に関して言うと「友だちづくりに関する研究」をしています。
こまちぷらすさんと一番関係の強いところでは、子どもが生まれた方、主にお母さんを対象にしておりますけれども、「人間関係」や「孤立」について扱っておりまして、「一人で子育てにならないために」という、このクラウドファンディングと同じようなテーマの研究もしております。どうぞよろしくお願いいたします。
森:石田先生は「孤立している状態」もしくは「孤独な状態」とは、どんな状況だと整理されているかお聞かせいただけますか?
■「孤立な状態」「孤独な状態」とは、どのような状態か?
石田:だいたい研究の中では定義が決まっておりまして、「孤独」というのが主に「孤独感」というもので、主観的な状態だと言われているんですね。例えば、学校には通っているし、サークルには入っているし、アルバイトもしている。でも、「人の中に居ても本当の自分を知ってくれている人は誰もいない」「どこに行っても自分のことを見てくれている人はいない」と感じること。
そして、「なんとなく自分は寂しいと感じる」とか「どうも独りぼっちな気がする」など、主観的なことに焦点を当てることが「孤独」や「孤独感」です。一方、「孤立」というのは、「客観的に人とのつながりが断たれてしまった状態」です。例えば、「一週間、会話らしい会話を誰ともしなかった」ですとか、あるいは、誰かの助けが欲しいと思ったときも「助けを頼める人が誰もいない」などの状態を「孤立」と言われています。
よく間違われるのが「孤立・孤立なんて、大したことじゃないか。一人でいて何が悪いんだ」という話もあります。そういったところで話されることは、どちらかというと、社会とのつながりはある程度は確保したうえで、「あえて一人になる時間が大事」だと見られていることです。でも、それとは全く違うということは、認識しておく必要があるのではないかと思います。
森:そうですね。まさに今、すごくわかりやすく「孤立」「孤独」について、主観の話なのか、実際に孤立状態なのかということを整理していただいたところですが、2019年にこまちぷらすと一緒に石田先生がやってくださった調査を紹介させてください。
150人規模の調査で、インタビューも数人行なったのですが、「子育てにおいての孤立・孤独が生まれる構造がある」と整理してくださったと思うんです。これについて、改めて先生からご説明いただいてもよろしいですか?
<調査> https://comachiplus.org/main/wp-content/uploads/2021/07/1adffe8b157f7ce2c27560d82fcedc0b.pdf
■子育てにおいての「孤立・孤独が生まれる構造」とは?
石田:子育てに限らず、「孤立」「孤独」が起きやすい条件として、まず「何らかの環境の変化」です。環境の変化は自分の身体についても当てはまります。例えば、突然事故にあってケガをしてしまったといった場合です。そういった変化が起きると、その変化に合わせて、自分の人間関係を再生していかなければいけないわけなんですね。
例えば、子どもが生まれると、子どもが生まれる前につくっていた友達関係が、子どもが生まれた後にそのまま対応するかというと、なかなか難しいです。周りの人がみんな独身だったら、「子どもが生まれて、こういうことに悩んでいるんです」と言うことは、なかなか難しいわけですね。そうなってしまうと、子どもが生まれた状況に合わせて、今一度人間関係をつくり直さなければいけない。これは友達関係を編みなおさなければいけない場合もあります。
もっと定番なことを言いますと、パートナーとの関係も結びなおさなければいけないんですね。子どもが生まれる前は上手くいっていたけど、子どもが生まれたら上手くいかないことはかなりあります。このような形で何らかの変化が起きると、まずは関係を結びなおさなければいけない。ただ、この結び直しと言うのは、必ずしも誰もが上手くいくわけではなくて、それに失敗してしまうと、「子育てをしていても誰にも頼れない、誰にも話すことができない」という形になってしまう。
なおかつ、子育てに関して特徴的なのは、2019年の調査結果に「幸せ幻想」と記していますが、「基本的にはできて当たり前である」とか、「子どもが生まれのは幸せなことじゃないのか」などとなってしまいますと、「できない」ということがなかなか言えない。そうすると、誰にも頼れないんだけれども、できないこと自体もなんとなく悪いことだと感じてしまうし、できないことを言ってしまうと「自分自身は親として失格である」という考えになってしまい、「孤立」「孤独」に陥るだけではなくて、そこからさらに「自己否定」という形になってしまう。
どんどん悪循環に陥ってしまう。結構これが子育ての中で起きやすいですし、介護でも同じですね。突然、介護をする状況になると、それに合わせて人間関係をつくり直さなければいけない。でもそれが上手くできない。そして「親なのに、そんな気持ちを抱いてしまうのはダメなのではないか?」と自己否定に陥ってしまうことがあります。このように誰もが経験をするような現象なんですけれども、ものすごく「孤立」「孤独」と近い距離にあるものの中に子育てや介護も含まれるんではないかと思います。
森:「孤立」「孤独」は、個人の問題として片づけられがちですけれども、一度その状況に入った時に、一人の力だけで人間関係を結びなおすことが難しい。
石田:そうですね。やっぱり一人の力で、というのはなかなか難しいですね。例えば私がお話を伺う方ですと、「一生懸命、状況を変えよう!」と外の場所に行ってみるという方もいらっしゃるんですよね。行ってみると、「行った先にいる人は上手く人間関係をつくれているのに、自分だけができていない」ですとか、「もうすでにその場所には関係ができてしまっていて、自分の入る場所がない」と感じてしまうことがある。
そうすると、ますます「自分だけが上手くできていない」と感じたり、「勇気を出してわざわざ行ったのに上手くいかなかった」となると、本当に関係の中から遠のいてしまうことになるので、自分一人で何とかしようと考えることはなかなか難しいですね。
森:仲良しの人たちの中に入っていくとなると、かえって惨めになってしまうのはよく聞きますね。こまちぷらすではこまちパートナーというボランティア制度があるのですが、その方々の中でも、こまちカフェに一度も来ていない人で、「こまちパートナー」という人がかなりいるんですね。
おしゃべりする、ただ「居る」というのは、なんとなく心地が悪いと感じる(私もそうだったのですごく分かります)けど、何か役割があるとそこにいやすい、自分の自己否定が何かが積みあがって自己肯定に変わっていくことがあると思っているのですが、そのあたり先生はどうお考えですか?
■「居る」だけではなく、「役割」があることで自己肯定につながる?
石田:そうですね。おっしゃる通りで、「人間関係をつくってください」と言われて、交流の場や友だちづくりの場に行って上手くやれる人って、実際は少なかったりするんですよね。そうではなくて、何か他にやることや居ることへの口実があって、そこに足を運んでいって、足を運んでいくうちにだんだん話すようになってくる方が丁度いいという人もたくさんいます。
「いきなり交流してください」「いや、私は交流が苦手なので無理です」となったり、そうゆう場所にわざわざ電話番号やインターネットでアドレスを調べて申し込むことが苦手、という人が多いですね。そういう傾向は強まっている気がします。コロナになってさらに、そういうことがやりづらくなったと感じます。
森:国も大きな問題であると捉え、政策としていろいろ検討しはじめたのもここ数年の動きだと思っています。その政策としての動きと場づくり・人と人との交流が、どう繋がってくると先生は見ていますか?
■「国の政策」と「各地域の場づくりや交流」がどうつながるか?
石田:政策として孤独孤立対策の観点で言いますと、2021年に孤独孤立担当室が内閣官房にできて、孤独孤立に関する法律が今年の5月にようやくできました。ですから、ここから本格的になっていくのかと思いますが、国ができることと地方自治体ができることはかなり違っております。
国はどちらかと言いますと、側面の支援になること。あるいは先程冒頭のお話でありましたように、孤独孤立の何が問題かを考えたときに国として「こうゆうことがあるから問題なんだよ」と言ってくれると、問題意識を全員で共有することができることがあったりもします。あくまでも国が側面の支援を行っている。
そしてどちらかというと、地方自治体、基礎自治体はそこを中心として、その周りの団体が上手く動いていけるように、居場所をたくさんつくることができるように、と支援することが役割というようになっていますね。
森:なので、居場所のいろんな部会もできつつあるんですよね。
石田:そうですね。あとやっぱり、その中でのポイントと言うのは「地域」という形になっています。結局のところ、森さんと一緒に行った調査でも出てきましたが、「距離が近いこと」は結構大事で、「物理的に離れた場所へ疲れた人がわざわざ行くのか?」ということですとか、あるいは小さい子供がいて「おむつも持たないといけない、ベビーカーも持たないといけない」という人が遠くに行けるのかといえば、なかなか難しいですよね。行こうと思える距離にあることが重要なんです。だからこそ「地域」というものが大事であるということになっていますね。
森:石田先生と全国で調査をしたときに、かなり顕著でしたね。「自宅から30分圏内」に対して、30分を超えるとグッと参加する人が減っていく。
石田:そうですね。特に今この暑い時期に小さい子どもを連れていくことって、新生児だったら無理でしょうし、1~2歳くらいの子どもでも、その子たちを引っ張って暑いベビーカーの中に入れていいのか、となると、30分が限界なのではないかと思いますよね。
森:そうですね。地方で言えば車で30分でしょうし、都市部であれば歩いていくのかもしれないですが、いずれにしても30分圏内だと思うと、実際に去年にいろいろな調査もして、「どのくらい子育ての居場所って、民間主導でカフェ型の形態が存在するのだろうか?」と調べてみたんですね。
1万人あたり0.66か所。すごく少なくて、民間主導だとほぼ0でした。でも、本当は30分圏内に、ただ交流するだけでもない、関わりしろのある場が増えていくことが大事で、そのためにはありとあらゆる角度から応援が必要だと思っています。
自己否定が起きている状況や関係性がない状況は、「場があることでどのように好転していくか」について、何がポイントなのでしょう?
■「自己否定」や「関係性がない状況」を場で好転させるためのポイント
石田:まずやはり、自己否定に陥る人って、「自分が悪い」となってしまいますので、そういったものを受け入れてもらうこと。なおかつ、こまちぷらすさんのような場で同じような境遇の人がいるだけで、ものすごく安心できるわけなんですね。同じ境遇の人がいるだけで、「ああ、自分だけだと思っていたけど、同じことを考える人がいるんだ!私だけじゃないんだ」と考えることによって、ようやく今の自分の状況を受け入れてあげることができる。
それで自分の状況を受け入れてあげることができると、ようやく周りが見えてくるようになって、少し動くことができるようになる。その中で、少しづつ自分自身ができることを周りの環境が上手く用意してあげると、どんどんどんどん「ああ、わたしでもできることがあるんだ」という形で良い循環になって、再度、社会と接続することができるようになっていきますね。
森:まさに私たちもポイントだと思っていて、自然発生するわけではなく、そこに人がいて、そこを感じ取って声かけたり後押ししたりする。変にお客さんとホスト側に分かれるのではなく、一緒にその場をつくっている感覚は大事だと思いますね。
石田:そうですね。やっぱり一緒じゃないとなかなか難しいですよね。ずっとやってもらう側になってしまうと、「ずっと私はやってもらう側なんだ。。。」と気分が沈んでいってしまう。どこかのタイミングで、自分が出せる側になることが大事で、出せるようになって初めて、自分自身の有用感が実感できるのかなと思いますね。
森:そうですね。ありがとうございます。あっという間に時間になってしまいました。ようやくイントロに入った感覚なのですが(笑)
最後にいま私たちがやっていることと、今お話ししたことを繋げて終えたいと思います。いま石田先生が言ってくださった「孤立」ということが、子育てにおいては特に、環境として激変して、環境を結びなおさなければいけないという時期でもありながら、同時に「なんか、できていない」という自己否定が生まれやすい時期でもあります。
そのときに「受け入れてもらえる場」「一人じゃないと思える場」を、私たちは神奈川県横浜市戸塚区でつくっていますが、全国に30分圏内に当たり前のようにある状態ができたら良いなと思います。ただ夢物語として語っているわけではなく、実際この3年間で70人くらいの方にこまちぷらすで実施している講座を届けながら、「これだけの人が自分の地域で居場所をつくりたいと思っているんだ!」ということを実感しているんです。あとはみなさんが地域に戻った後に、それを立ち上げやすくなる環境が必要です。
そのためには官民住民、みなさんが総力をあげて支えていただくことが必要だと思っています。こまちぷらすがフランチャイズで場所を広げるためにクラファンに挑戦しているわけではなくて、「町中に、日本中に居場所が増える未来を一緒につくっていただきたい!」と思っています。
そのために今必要だと思っているのが、各地域で根っこが生えにくい土壌になっているところがあるので、色々な地域で企業の方や地域の方、プロボノや場所を持っているお寺の方などをつなぎながら、いざ「つくりたい!」と思った人たちの周りに応援団をつくることをやっていきたいと思っています。(2025年末までに)10地域で講座やインターンシップの総合プログラムをつくっていく予定です。
3年間で各地域10人くらいの参加を見込んでいて、そうすると100団体人くらいの方々が参加してもらえると思っています。その皆さんの横のネットワークもつくろうとしています。かなり力と時間がかかる時間ですし、即効性のあるような、「何か分かりやすい建物ができます!」といったことではありません。土壌づくりの話です。
でもこれこそ今やらないと、つくりたいひとが孤軍奮闘して終わってしまうし、実らない状態を生み続けてしまうことになるので、たくさんの方の力と支援をいただきたいと思っています。
そして改めてここまでのお話を振り返りますと、石田先生が深めてこられた「孤立」「孤独」についてと、「場」がセットになることで、少し石を積み重ねることにつながるという未来を語っていただきました。改めてどこかの機会でお話しいただく機会をつくれたらと思います。
(・・・と大分熱く語ってしまいました、、、)
石田先生、最後に一言いただけますでしょうか?
石田:はい!かしこまりました。いま、プロジェクトをご紹介いただきまして、私自身もお話を伺って思うのが、国の方向性とも非常に合っているわけなんですね。国としても、なるべくたくさんの居場所をつくることが大事だと考えている。なおかつ、「孤独」「孤立」を考えていきますと、どこかに引っかかる場所を持つことが大事なんですね。
その引っかかる場所というものの可能性を広げる意味では、たくさんあった方が良い。たくさんあった中で、どこか一つに引っかかっていけば、そこから突破口として悪い流れを変えることができる。ですから、一つの場所があるだけではなかなか難しくて、そこに上手く適合できなかったりですとか、あるいは目にすら入らなかったりですとか、情報を得たくてもなかなか得られない方々が対象になってくる。
そういった方々が、少しでも気分が前向きになったときに、「このような止まり木がありますよ!」と目につくものをいくつ用意できるかがかなり重要になってきます。そういった意味でも居場所の種を広げていくと、「孤独」「孤立」を感じる人がどんどん少なくなっていくのではないかと思います。
森:嬉しいエールをありがとうございました!また機会があったら、次の調査もいつかしてみたいと思います。今日は本当にお忙しい中、ありがとうございました!
石田:ありがとうございました!
対談映像はこちら
2023年11月に石田教授と本を出します!!!!!!
NEWS!!!
2023年11月に石田光規教授×こまちぷらす代表森祐美子×まつどでつながるプロジェクト運営協議会マネージャー阿部剛で本を出版します!
タイトルは:『「ふつう」の子育てがしんどい 「子育て」を「孤育て」にしない社会へ 』(石田光規 編著 晃洋書房)です。
こまちぷらすの事例もたくさん入っています。是非詳細、お楽しみに!!!!!!!!!
「孤立した子育て」を「まちで子育て」になる社会へ、クラファン通してご参加ください!
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